「ザ・サーチ グーグルが世界を変えた」を読む。The Search: How Google and Its Rivals Rewrote the Rules of Business and Transformed Our Cultureの翻訳である。当然 Google のことが多く書かれているが、Google には限らない。原題の通り「検索エンジン」の歴史と意義を紐解き、未来を予想する。
Google の PageRank という概念が生まれた背景、Stanford 大学 Ph.D プログラムでの研究、そして事業化への道。当時最もよく使われていた検索エンジン AltaVista はなぜ Google の PageRank を採用しなかったのか? Excite は? Yahoo は? 企業への技術供与という道がいったん閉ざされた中で、Larry Page と Sergey Brin は起業という道を選ぶ。
ここではいかにも Silicon Valley らしいエピソードが残っている。Stanford 大学は教授も起業家。したがってベンチャーキャピタルやエンジェルとも交流が深い。起業資金のない二人のために、先生(分散OS V で著名な David Cheriton)がエンジェルを紹介する。それがかの Andy Bechtolsheim (Sun の創業者)である。一目で技術の将来性と学生たちの情熱を見抜いたのだろう、Bechtolsheim はその場で小切手を切る。学生たちが提示した額に「それでは十分とは思えない、その 2倍は出そう。」
総じて検索エンジンとそのインパクトについて、啓蒙的な書となっている。しかしその一方で技術者にとっては物足りない内容だと思う。僕個人としては、以下の二つの点が心に残った。
一つは、現在の Google の収益の柱である広告について、創業者は二人とも当初否定的であったことである。技術は凄かったがビジネスモデルは未確立。当初は検索エンジンの技術供与しか考えていなかった。今の広告ビジネスの原型は、GoTo.com のちの Overture が先に確立し、Google はそれを真似したように見える。
二つめは、「検索 = 思考過程」という認識である。すべての情報サービスは、煎じ詰めれば、データベースの構築とその検索に行き着く。作られた複数のデータベースが相互に連関することにより、たった一つの検索語から情報、関連する広告、商品へとつながっていく。検索語という利用者の意図が、目的の物理的なモノにつながる。検索をやり直すことで新たな情報・モノを見つけている。この検索履歴こそが、そのときの自分の思考過程をなぞっていることになる。
検索履歴・クリックストリームが意味するところを検索エンジンが理解したらどうなるだろうか。一つの試みがA9.comに見られる。検索を Recovery (以前訪ねたところを再度訪れる)と Discovery (行きたい場所にたどりつく)の二つの側面にわけ、検索履歴・クリックストリームを解析することにより、この二つを実現する。Amazon などのリコメンデーションも、履歴に基づく「高度な検索」と言えよう。
自分たちが取り組んでいるあらゆる Web サービスにおいて、検索がかかわってくる。どういうデータベースを作り、検索インタフェースをどのように設計するか。その重要性を、もう一度きちんととらえなおす必要がある。
スピーディに翻訳書を出版したと思うが、残念ながらその訳には感心しなかった。翻訳者がコンピュータ・サイエンスや IT 業界にある程度通じていれば、こういう訳にはならなかっただろうと思う箇所がある。訳語の不統一・誤植も相当散見された。
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The Search: How Google and Its Rivals Rewrote the Rules of Business andTransformed Our Culture
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