科学雑誌『Newton (ニュートン) 2008年 06月号』の特集は万能細胞。受精卵のように何にでもなれる幹細胞を、京都大学の山中伸弥教授はヒトの皮膚から作ることに成功した。この画期的なニュースが流れたのが2007年11月。iPS 細胞(= induced Pluripotent Stem Cell、人工多能性幹細胞)と名づけられた万能細胞がどのような戦略のもとに研究されて作られたのかを、この特集は以下のような構成でグラフィカルにわかりやすく解説する。
- プラナリアの持つ再生能力とは何か。
- 再生能力を持つ幹細胞はどうしたら作れるか。
- 受精卵が持つ万能の増殖能力に注目して胚から作られた幹細胞が ES 細胞(= Embryonic Stem Cell、胚性幹細胞)。その問題点は倫理性と拒絶反応。
- 胚やクローン技術を使わずに万能細胞を作れないか? ES 細胞で活発に働く因子をつきとめて、ヒトの皮膚の細胞に送り込めれば万能細胞ができるのではないかという着想。
- その因子は細胞を「初期化」する遺伝子。当時10万あるとも言われた遺伝子の中からどうやって山中教授は4個まで(その後3個でも成功したという発表が山中教授よりなされている)絞り込んだのか。
- iPS 細胞の持つ再生医療への可能性と課題
- 山中伸弥教授へのインタビューと、山中教授とデッドヒートを繰り広げ同日にヒト万能細胞を発表したジェームズ・トムソン教授(1998年にヒト ES 細胞の作成に初めて成功している)へのインタビュー
遺伝子操作によりヒトの細胞を「初期化」して万能な再生能力を得る。シンプルな着想だが、最も本質的と思われる因子まで絞り込んだ努力は並大抵のものではなかっただろう。iPS 細胞の実用化・臨床応用に向けての研究は緒についたばかり。iPS 細胞が根源的なものだけにその可能性は大きく、そのためにやらなければならない研究は数多い。iPS 細胞からどうやって神経や筋肉、はては心臓などの臓器を作れるのか。その安全性は?倫理的な問題は?何年かかるかわからないが、iPS 細胞を境に将来の医学研究の方向は大きく変わることになる。まさに seminal な業績である。
Newton (ニュートン) 2008年 06月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: ニュートンプレス
- 発売日: 2008/04/26
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