Muranaga's Golf

46歳でゴルフを始めて10数年。シニアゴルファーが上達をめざして苦労する日々をつづります

日本で「自生」するソーシャル・ウェブサービスを読み解く『アーキテクチャの生態系』

濱野智史 『アーキテクチャの生態系――情報環境はいかに設計されてきたか』は、2ちゃんねるミクシィmixi)、ニコニコ動画などのソーシャルなウェブ・サービス(ネット・コミュニティ)が、日本で独自に「自生」してきたさまを、情報社会学論として読み解く。タイトルにある「アーキテクチャ」とは、技術によって人々の行動や社会の秩序を規制する方法を、しかも規制されている側がその存在に気づかずにコントロールされてしまう方法を指す。日本のソーシャル・サービスは、日本の社会が持つ特質を成り立たせるアーキテクチャを持っていることを、この本では具体的に解説する。

アーキテクチャの生態系――情報環境はいかに設計されてきたか

著者は日本のネット・コミュニティを「繋がりの社会性」という概念で説明する。これはコミュニケーションの内容そのものではなく、コミュニケーションしているという事実を確認すること、人と繋がっていることを確認することが目的化したコミュニケーションを指す。2ちゃんねるミクシィは匿名の者同士の「繋がりの社会性」を具現化する巨大な内輪空間になっているが、たとえばミクシィのあしあと機能は繋がりを確認するアーキテクチャとなっていると言うことができる。

ニコニコ動画のコメント(によるコミュニケーション)機能も然り。視聴体験を共有させることにより、擬似的に同期を実現、「いつでも祭り」状態を作り出すことができる。これによって、YouTube にはない、視聴者同士が繋がっていることを確認する「繋がりの社会性」が実現されている。そして皆が体験・感想を共有することにより、コンテンツ評価について、ある限定された客観性が生まれ、それが「初音ミク現象」を生みだす源泉となった。

ケータイ小説『恋空』の解説も、「なるほど」と思わせるものであった。僕などにはまったくついていけない世界に、なぜ若者は「リアル」を感じるのか?『恋空』をケータイ操作のログとしてとらえることにより、新たな視点が開けてくる。

この本は、もともと著者のブログ「情報環境研究ノート」でなされていた分析を本としてまとめたもののようである。著者自身により 本の紹介もされており、この本の鍵であるアーキテクチャの生態系の図や目次、索引、正誤表などが記されている。

Facebook に対するミクシィYouTube に対するニコニコ動画。グローバル・インターネットで生まれた概念が、日本では別の形に変質する。その日本社会が持つ磁場を、情報社会論として見事に説明した本ではないだろうか。

こういった日本独自の変質あるいは屈折を、梅田望夫氏はおそらく取り上げないだろう。実名同士が議論を戦わせるオープンな知の空間、「個のエンパワーメント」のためのブログとは異質の、日本にローカルなものだからだ。しかし「繋がりの社会性」という日本独自の特性に注目することは、今後、国内でのサービスを設計していくうえでは非常に重要なポイントになるだろう。日本でのネットコミュニティ、ソーシャルなウェブサービスを構築する人にとっては、must-read と言ってよい本である。