定番本といっても、これらの本を読んで自分たちの戦略を立てるという「まっとうな」使い方をするわけではない。自分たちの仮説を確認するために使う。もっとありていに言うと、自分たちの戦略を説明するのに都合のよいデータを引用するのが「正しい」使い方である。市場規模の予測データはもちろんのこと、企業よりも消費者の IT 活用環境の方が高度化する現象、「産消逆転」といった概念も、自分たちの仮説を「正当化」するのに使える。
さらに情報ソースの違うデータを複数用意すれば、より信憑性が増す。説明を受ける方もその辺はお見通し、「お約束」のようなものだが、一応、自分たち以外の第三者による「客観的な」データで裏付けてみせるというのは、プレゼンテーションの一つのテクニックである。
実際のところ、これらの本はある程度トレンドが見えたところで書かれるので、ホットな情報ではない。技術・市場の最前線にいる身にとっては、自分たちが肌で感じているトレンドを再確認するのに過ぎないわけだが、ある程度ことばが定着した時期で経営陣に説明するのが、頃合いとしてはちょうどいいタイミングである。2006年くらいに Web2.0 と言っても、その概念を説明するところから始めなければならなかっただろう。(O'Reilly の "What is Web2.0" が発表されたのは 2005年9月である。)
それにアナリストのような第三者が業界トレンドをどのように見ているかを、このような本を通して認識しておくことはまったく無意味なことではない。