半年前の「企業 IT 特集」を読んで以来、The Economist 誌のクラウド・コンピューティングに関する記事には欠かさず目を通してきた。4月2日の「クラウド・プロバイダをめぐる動き」というエントリは、"Gathering clouds" という記事に触発されて書いたもので、3月末に発表されたばかりの "Open Cloud Manifesto"(「オープン・クラウド宣言」)に関する僕の見解を述べた。
最新号(April 4th, 2009)の "Clash of the clouds" という短い記事には、The Economist らしい、クラウド業界から距離を置いた冷静な見方が表われている。
- クラウド・コンピューティングは the next big thing かもしれないが、その政治的な動きはメイン・フレームと同じくらい古臭い。
- 今回、業界にちょっとした論争を生んだのは "Open Cloud Manifesto"(「オープン・クラウド宣言」)だ。その内容自体は、ほとんど誰もが合意できるくらい漠然としたものである。たくさんの異なるクラウドが出現するだろうから、顧客がロックインされずに容易にクラウドを移行できるよう、可能な限りオープンな標準を使うべきだとするものだ。
- 多くの技術課題が未解決のままで、クラウド・コンピューティングの定義さえ決まっていない今の状況を考えると、オープン性について合意しようとするこの「宣言」は時期尚早である。
- このタイミングで、オープン性について合意することは、新参者や新興企業に機会を与える一方で、既にクラウド・コンピューティング事業で先行して、独自開発の技術で課題を解決している会社の動きを抑制することになる。
- IT サービスでお金を稼いでいる IBM が、この「宣言」の後ろで力をふるっていたのは驚くにあたらない。Cast Iron、Engine Yard、RightScale のような新興企業、さらには Cisco、EMC、SAP が「宣言」に賛同するのも、クラウドが普及することによって、自分たちの製品が売れるからだ。
- 一方、クラウド業界のリーダーである Amazon、Google、Salesforce.com、Microsoft の名前が、この「宣言」の支持者リストの中にないのも、予想通りである。
- いずれクラウド・コンピューティングが本格化(take off)すると、標準をめぐる全面戦争になる可能性さえある。
"Open Cloud Manifesto" に関して、僕が感じた通りのことが書かれている。全面戦争は言い過ぎにしても、先行して事実上の標準を作り上げようとするリーダー企業と、追いかける後発連合部隊の戦いという、IT 業界で何度も繰り返されてきた歴史的な構図に言及している点、"Open Cloud Manifesto" の内容が薄い点、さらにこのタイミングでの「オープン宣言」が時期尚早であるとした点は、まさに「その通り!」である。
ただ "Open Cloud Manifesto" にも、それなりの活用法はありそうである。たとえば支持者リストにある新興企業を見てみよう。彼らが取り組んでいる問題の多くは、クラウド利用側として、やるべきこと・検討すべきことがたくさんあることを示しているように思う。
クラウド・コンピューティングに関するエントリ
- 2009.3.5:「クラウドを超えて」("Above the Clouds")を読んで
- 2009.3.6:『クラウドの衝撃』、『クラウド化する世界』(The Big Switch)
- 2009.3.17:クラウド・コンピューティング --- The Economist:「企業 IT 特集」を読む ---
- 2009.3.20:ティム・オライリー、「Web 2.0 とクラウド・コンピューティング」を語る --- ネットワーク外部性の観点より
- 2009.3.30:Sun の徹底的にオープンなクラウド戦略
- 2009.4.2:クラウド・プロバイダをめぐる動き --- IBM、Sun、Cisco、Amazon、「オープン・クラウド宣言」
- 2009.4.3:来た来た! Amazon + Hadoop = Amazon Elastic MapReduce
- 2009.4.6:「オープン・クラウド宣言」("Open Cloud Manifesto")は漠然としていて時期尚早 --- The Economist 誌の冷静な見方