小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトリーダである川口淳一郎教授の講演を聴講、その洞察の深さに感銘を受け、帰宅してすぐに最新の著書である『「はやぶさ」式思考法』を読んだ。「はやぶさ」プロジェクトだけではなく、学生時代の親や先生からの教え、そして宇宙研に入ってからの数々の経験、特に失敗から得られた教訓をふまえて、川口先生自身が形成されてきたものの考え方・見方が語られている。
- 作者: 川口淳一郎
- 出版社/メーカー: 飛鳥新社
- 発売日: 2011/02/04
- メディア: 単行本
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「高い塔を建ててみなければ、新たな水平線は見えてこない。」を信条とされ、独創的であることを常に求めてきた研究者・工学者ならではの考え方は、新しいビジネスに取り組む際にも大いに参考になる。ベースにあるのは、「減点法ではなく加点法にする」という精神である。通常のプロジェクトであれば、リスクを減らす減点法のマネジメントが現実的だが、「はやぶさ」のようなハイリスク・ハイリターンのプロジェクトには、失敗をカウントする減点法ではなく成功をカウントする加点法を使うべきというものである。
個人的に興味深かったのは、「学びのプロ」になってはいけない、というところ。僕自身も多分にそういう面があるので気をつけなければならないのだが、本や文献を読むこと自体が目的化してしまう「勉強病」にかかってしまう人が多い。教科書に書いてあることは過去のこと。そこに現実世界の答えはない。もちろん大量のインプットなくしてアウトプットはないが、インプットそのものが目的化するという錯覚に陥ってはならない。
重要なことは独創的なインスピレーション。それを実現するための手段としての学びであるはずが、学びだけで終わってしまうのが「学びのプロ」という訳だ。独自の発想で、やりたいことに向かって進むためには、天の邪鬼になる必要がある。ただ、いかなる独創性も人に理解されなければ埋もれてしまう。ディベート力、プレゼンテーション能力といった、人を説得する力の必要性も忘れてはならないと釘を刺されている。
それからもう一つ忘れてはいけないのは、問題点を指摘するのではなく、「こうすればできるのではないか?」という解決策なりヒントなりを考える姿勢。経営の立場にいると、より堅実策を取ろうとする力が働く。ともすると、新しい企画に対して、問題点や課題ばかりが気になってしまう。しかし新しいビジネスをやる、あるいはイノベーションを起こそうとしている時には、課題はあって当然だ。限られた時間でそれをどう乗り越えるか、そのためにフィージブルな策があるのか、そういった思考を後押しすることを優先させるべきである。
NASA に初期のアイディアを使われてしまった悔しさから、NASA さえもひるむような「サンプル・リターン」というハイリスク・ハイリターンの構想を口に出し、しかもそれを驚異的な意地と忍耐で成功させてしまった川口先生。もし「はやぶさ」が失敗していたら、これほど注目を集められただろうか?つい、そういう風に考えてしまう僕自身が、日本の「減点法」教育にかなり毒されていることに改めて気づかされる。「はやぶさ」はイトカワに到達しただけでももの凄いことであり、ましてやサンプル・リターンにまで成功したと言うのは「夢を超えた」「出来すぎ」のプロジェクトだったのである。
日本が世界に誇るイノベーションを起こせる国になるために。川口先生自身もあとがきで述べられているように、若い人に読んでもらいたい本である。
小惑星探査機「はやぶさ」関連のエントリ
- 2010.7.3:『はやぶさ --- 不死身の探査機と宇宙研の物語』
- 2010.10.10:小惑星探査機「はやぶさ」を知る
- 2010.12.17:涙なしに読むことができない『はやぶさ、そうまでして君は --- 生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話』
- 2010.12.24:小惑星探査機「はやぶさ」を知る DVD
- 2011.1.19:「はやぶさ」本の決定版:川口淳一郎『小惑星探査機はやぶさ --- 「玉手箱」は開かれた』
- 2011.2.15:「はやぶさ」プロジェクトリーダ、川口淳一郎教授の講演を聴く
- 2011.2.16:減点法に毒されている自分に気づく:川口淳一郎『「はやぶさ」式思考法』
カラー版 小惑星探査機はやぶさ ―「玉手箱」は開かれた (中公新書)
- 作者: 川口淳一郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
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はやぶさ、そうまでして君は〜生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話
- 作者: 川口淳一郎
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2010/12/10
- メディア: 単行本
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