アビーム M&A コンサルティングの岡俊子社長の講演を聴く機会があった。M&A の実務プロセスの中で、特に問題となるようなものについてクイズ形式で少し考えさせ、そのあと実際の事例を交えた説明があり、興味深く聴いた。
自分が買収対象会社の経営者となったことを想定した場合、売り手である現在の株主である親会社と、将来の株主となる可能性のある買い手との関係を考えると、利益相反となりかねない状況がさまざまな局面で現れる。その時自分はどう対応すべきか。たとえば:
- 競合会社が買い手となった時のデューディリジェンス(DD)前半における情報開示のレベルはどうあるべきか(コアの技術情報を開示すべきか、せざるべきか)。
- DD も終了・買収もほぼ決着がつきそうなところで、いよいよ株主になるであろう買い手企業からビジネスプランを見せられた場合の対応はどうすべきか(修正してあげるべきか、黙って返却すべきか)。
岡さんが講演を通して強調されていたことは M&A を成功に導くためのポイント。一つは「M&A 後(Post M&A)の姿」が描けているか。もう一つは M&A の経験を積むことが必要で、ある意味「練習」した方がいいということ。後者を実行に移すのはなかなか難しいと思うが、確かにそう思う。実際の交渉も含め、場数を踏むことが必須である。
もう少し簡単なところで「企業価値と事業価値、株主価値の違い」を問うクイズあり。経営者にとっては常識テストの範囲であるが、いきなり聞かれると意外と考え込んでしまったりする。ファイナンスの立場では、B/S を事業資産と非事業資産とに分けて考えることを確認するためのクイズであった。
「現金による買収と株式交換とで、買収価格はどちらが高くなるか?」というクイズもあった。価値評価(valuation)としては原理的には同じだが、実際の価格づけ(pricing)は異なることを示す問題である。
ちなみに。
M&A のベースとなるファイナンスの知識は、僕の場合数年前に読んだ教科書のレベルだが、実務上はプロのスタッフがいるので何とかなっている。M&A 実務に関して、さらに進んだ本は一橋大学の服部暢達先生の「実践M&Aマネジメント」と「M&A最強の選択」の2冊であろう。前者は実務経験豊富な著者が書いたいわば M&A の教科書、後者では日本の M&A 事例について骨太の分析がなされている。またこれらの本を読む時の基本概念を確認するには、「M&A・事業再生用語事典」が便利である。