成田美寿々、穴井詩、武尾咲希といった女子プロのコーチでもあり、東大ゴルフ部の監督でもある井上透プロコーチが、YouTube によるレッスン動画を始めている。その名も「井上透ゴルフ大学」。データに基づくファクト分析と科学的でロジカルな説明が、いかにも理論派の井上プロらしいチャネルになっている。プレゼンテーションを使った説明も多く、名前が示す通り、ゴルフのレッスンというよりは、大学の講義を聴いているような気分になる動画もある。
まず最初に紹介したいのが、JLPGA女子プロのスタッツ解説動画である。渋野日向子、鈴木愛、申ジエ、畑岡奈紗といったトッププロの凄さを、データで明らかにする。それぞれの選手の個性が、データにより如実に明らかになる(やはり「申ジエ、恐るべし!」:
そして僕が最も興味を持ったのは、「シャローイング」についての動画である。僕が取り組んでみたいテーマそのものを扱っているからだ。ただし、その動画の冒頭に「残念なお知らせ」と称して、「大概のアマチュアはシャローイングができない」と断言している。ダウンスイングでクラブが後方に倒れる時に、フェースが開かないことが前提条件であり、それを満たさないとシャローイングはできない。また過度なシャローイングは地面反力を使えなくするし、身体の硬い人には向かない。僕にとっても大変「残念なお知らせ」である。
どうしたらクラブは倒れるのか?【井上透ゴルフレッスン〜シャローイング編〜】
この動画の要点をまとめると:
- シャローイングの意味は、フェースの開閉を抑えることにある。
- 大概のアマチュアは「シャローイング」ができない。いくつかの前提条件を満たす必要がある。
- ダウンスイングでクラブが後方に倒れた時に、フェースが開かない準備ができていること
- フェースをクローズさせる左手の掌屈も、アマチュアは意外とできないし、掌屈のやり過ぎは手首を痛める
- シャローイングをするための前提条件を満たすグリップがある:
- 右肩の上から左骨盤に向かって「釣竿を投げる」ような動作の時のグリップ
- このグリップであれば、トップから後方にクラブが倒れた時も、フェースが開かない準備ができる
- 多くの人はスクエアよりも少しストロンググリップ(フックグリップ)になるはず
- そしてこのグリップであれば、過度に左手を掌屈させる必要がない
- シャローイングのやりかた:
- バックスイングは真っ直ぐ上げる(フェースは開かない)
- 左腕が地面と平行のポジションで、左方向に鋭く体重移動する
- こうすると「自動的に」クラブは後ろに倒れる。これが「シャローイング」
- 練習ドリル:
- マシュー・ウルフのループする動きをドリルにする
そしてシャローイングに取り組む際に、次のような注意点を挙げている:
- 過度なシャローイングは間違い:
- 体が硬い人は無理にシャローに下ろさない
- 地面反力が使えなくなる
- つまりシャローイングの程度は人それぞれ。上げたところより少し内側を通るくらいに考えるとよい
- レッドベターの「Aスイング」も、アマチュア向けのシャローイングの考え方である:
- レイドオフ、シャフトクロス、どちらにもメリット・デメリットがある
- インサイドからのドローを打ちたければ、シャローイングの動作に取り組むのは悪くない:
- 誰がやってもうまく行くとは限らない、上手く人は取り組むとよい
ここで推奨されている「釣竿を投げる」時のようなグリップについて解説している動画はこれである:
スライスが一瞬で消えるグリップ論。これであなたは、クラブが倒れ(シャローイング)、フェースも開かず、さらに飛距離も出るという「最強」のグリップが身につきます。【井上透のゴルフレッスン】
流行の「GGスイング」についても解説している。地面反力をはじめ、力を最大限に使うスイングである。飛距離も出るだろう。ただし「最高難度の演目」である。
GGスイングは○○を最大にする方法に過ぎない!?巷のゴルフ理論をぶった斬る!【井上透が教える動きと力の関係】
この 3本の動画から、僕なりの学びをまとめると:
- アマチュアがシャローイングを行うのに適したグリップは、「釣竿を投げる」時のグリップ(少しストロンググリップ)である
- シャローイングの程度は人それぞれ、できる人が自分に合った範囲で取り組むとよい
- 地面反力を含め、力を最大にする GGスイングは最高難度の演目であり、アマチュア向きではない
ということになる。
動画だけでなく、井上透プロの著書についても、何冊か紹介しておきたい。ゴルフ上達のためには、物理の知識を持って、論理的にスイング技術をとらえる思考力を鍛えると同時に、自分の身体能力に応じた適切なスイングを身につけることを説いている。
- 作者:透, 井上
- 発売日: 2019/06/26
- メディア: 単行本
計測機器の発達により、科学的にゴルフのスイング・道具について理解が進み、昔の理論が見直されている。『プロコーチ井上透の「頭で勝つ」ゴルフ』は、現在の常識となっている「Dプレーン理論」をはじめ、科学的なゴルフへのアプローチについて、今わかっている知見をまとめている。ゴルフスイングを学ぶにあたって知っておいた方がよい知識が、手際よく整理されており、使い出のある便利な本となっている。
たとえばボールの弾道(方向と曲がり)が、クラブパスとフェースの向きの組み合わせによって、どのように生まれるのかを示した「Dプレーン理論」、ゴルフスイングの基本的なメカニズム、道具に関する知識などが、全ページカラー、豊富な図でわかり易く説明されている。
『東大ゴルフ部が実践!ゴルフを科学する』は、ゴルフ上達のために技術を論理的にとらえる思考力を鍛える本。セオドア・ヨーゲンセン博士の著 "The Physics of Golf" の「Dプレーン理論」を、科学的なゴルフの基本理論として紹介する。
- ボールの打ち出し方向(出球)を決めるのは、主にフェース角(クラブパスではなく)
- ボールの曲がりを決めるのは、スピン軸の傾き。それはクラブパス(インパクト時のスイング軌道)に対するフェース角によって決まる
- 打ち出し方向をフェース角が決めるのは、ドライバーの場合 80%、アイアンで 70%。クラブパスや打点の影響は 20-30%
- スピン量を決めるのは、ダイナミックロフトと、アタックアングル(入射角)の差
ハンドファースト・インパクトの重要性を説き、それを実現する左手のヒンジ(掌屈)の動きを解説する。また切り返しの時に自分から見てクラブヘッドが「時計回り」に、背中側に倒れることで、理想的なスイングプレーンに低くクラブが入ってくる「シャローイング」の技術も紹介している。
どんなに正しい知識を身につけても、その通りに身体を動かせないと単なる物知りに終わる。鏡やビデオを見ながら自分のスイングをチェックして修正していくことが大切であると説く。そしてミスを傾向としてとらえる中で課題が明らかになる、日々変わる調子を整える調整力の養成が大事であることを強調する。
飛ばしのための3つの動き、その習得ドリルを解説したのが『東大ゴルフ部の教科書「飛ばす」!』である。
- 前腕の回旋動作+右回りループスイング
- 前腕の回旋と身体の動きを組み合わせたものが右回りのループを描くスイング
- 捻れ・Xファクター
- 胸郭(上半身)と骨盤(下半身)の分離
- 地面反力
この3つをすべてやる必要はない。1. ループスイングは、シニアやアベレージゴルファーに勧められるし、3. 地面反力は、運動能力のある人に向いている。 1. ループスイングと 3. 地面反力とを組み合わせるのは、かなり運動能力・機能性が高い人向き。3. をやる時はワンピース・スイング(行きと帰りの軌道が同じ)がよい。