Muranaga's Golf

46歳でゴルフを始めて10数年。シニアゴルファーが上達をめざして苦労する日々をつづります

「パッシブトルク」を正しく理解しよう:『生体力学x動力学でクラブの科学を理解する ゴルフ 3D スイング』

「パッシブトルク」という概念を正しく理解しているだろうか?「シャローイング」とはどう違うのだろう?

この素朴な疑問に答えてくれる本が、吉田洋一郎プロによる『生体力学x動力学でクラブの科学を理解する ゴルフ 3D スイング』である。この本では、サショ・マッケンジー(Sasho Mackenzie)博士の「パッシブトルク」に関する研究を紹介している。これは2012年に発表された研究成果で、著名コーチであるクリス・コモ(Chris Como)と一緒に作った動画により、「パッシブトルク」の概念が世界に広まり、ゴルフレッスンの業界にインパクトを与えた。


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僕は「パッシブトルク」という言葉を、三觜喜一プロの本や動画で知った。三觜プロは、切り返しの時にクラブが慣性で受動的に背中側に倒れる動きを「パッシブトルク」と紹介していたが、最近流行りの「シャローイング」との違いがよくわからない。パッシブトルクはその名の通り受動的な動きだが、シャローイングは自ら働きかけるアクティブな動きなのかな?それくらいのイメージしか持っていない。

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この『ゴルフ 3D スイング』を読むと、それぞれの言葉の定義と関係性が書いてあって、違いがわかるようになっている。

パッシブトルク

  • グリップに力(フォース)を加えた時、クラブ自体が重心を中心に回転しようとする力、クラブが方向を変えようとする力。「トルク」と同義。
  • クラブの方向変化の力(パッシブトルク)を利用することで、より少ないフォースで効率的にスイングできる。
  • パッシブトルクは、クラブを動かし続ける限り発生する。次の2つのポジションで感じられるとよい。
    • ダウンスイングのスタート:シャローイングによりフェースが勝手に閉じる方向にパッシブトルクが働く。
    • ハーフウェイダウンからインパクト:手元を左斜め上に引き上げると、ヘッドを加速させる方向にパッシブトルクが働く。

シャローイング

  • ダウンスイングのスタート時点(切り返し)でクラブを「寝かせて」、シャフトの角度を浅くすること。
  • クラブが早くスイングプレーンに乗り易い、フェースを閉じながら下ろし易い(ボールがつかまりやすい)、ダウンスイング後半でヘッドを加速し易いなど、さまざまなメリットがある。
  • シャローイングにより、ダウンスイング時には鋭角に手元が引かれるため、スイングが進むにつれ、シャフトが立ち、フェースが自然に閉じる方向にクラブの「パッシブトルク」が働く。
  • この「パッシブトルク」により左前腕の回外をサポートすることができる。

切り返し時のシャローイングからのダウンスイングにおいて、パッシブトルクが働き、フェースが自然に閉じる。逆に切り返し時にシャフトが立っていると、スイングが進むにつれ、パッシブトルクによりシャフトが寝て、フェースが開いてしまう。パッシブトルクによりフェースが閉じて、効率的に球を捕まえることができる。

マチュアの陥りがちなミスについて、その要因を紹介している:

  1. キャスティング(切り返し)
    • 切り返し直後に、腕とクラブの角度が開いてしまう。
    • トップから打ちに行く(下半身先行しない)。右手で強くフォースを加えすぎて、クラブの向きが急激に変わってしまう。
  2. アーリーリリース(ダウンスイング)
    • ダウンスイングで、腕とクラブの角度(タメ)を早くほどいてしまう。
    • キャスティングと似ていて、右手のフォースを強く使って、クラブの向きが変わってしまう。
    • このためダウンスイングの途中で、トルクを使い切ってしまい、減速しながらインパクトを迎えてしまう。
  3. 間違ったハンドファーストインパクト)
    • 手元を目標方向に送りながらインパクトしようとするのは、フォースの間違った使い方
    • インパクトからフォローにかけてヘッドを加速させるには、手元を斜め上に引き上げるようにフォースを加える必要がある。

タメを長く保持するには、切り返しで手元を飛球線後方に向けて引き下ろすイメージが必要である。そうするとタメをほどこうとするトルクが働かない。この時、左右の手で「フォース」のかけ方が違う。切り返し時、リードアーム(左腕)は下向きに引く。一方トレイルアーム(右腕)はいったん後方に引く。それによりリリースを遅らせることができる。

この『ゴルフ 3D スイング』は、クラブを引くことを強調する三觜プロの「うねりスイング」の根拠を示した本であると言えよう。三觜プロは、パッシブトルクについて「クラブを速く振ろうとすると、切り返しで受動的にシャフトが背中側に倒れる動き」と記している。つまり意図的にシャローイングしなくても、慣性でシャフトが背中側に倒れると表現している(僕が「パッシブトルク」と「シャローイング」の違いがよくわからなくなったのは、この表現があったからだ)。

そしてその状態から「引き戻すとクラブがスイングプレーンに戻ろうとしてくれるので、スピードと正確性が両立する」と言っている。この動きも、パッシブトルクによるものであることが『ゴルフ 3D スイング』で説明されている。

この『ゴルフ 3D スイング』は、ちょうど1年前に読んだ Jacobs 3D を紹介した『ゴルフの力学』ほどマニアックではなく、サクサク読み進めることができる。因みに Jacobs 3D ではトルクのことを、ゴルファーが自ら働きかけてクラブを回転させる運動を指す(パッシブなトルクではない)。Jacobs 3D において、「パッシブトルク」は「ローテーション」という言葉で表現される。グリップに「フォース」を働きかけることにより、「ローテーション」が起こる。この「ローテーション」が「パッシブトルク」に相当する。

Jacobs 3D も三觜プロの「うねりスイング」の理論的根拠となっている。マッケンジー博士の「パッシブトルク」の概念を、計測器の発達により、さらに精緻に詳細化していったものが「Jacobs 3D」であると位置づけられるのではないだろうか。

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吉田洋一郎プロは、欧米の著名なコーチのメソッドやゴルフの科学的な理論について、その入門編を日本に紹介するというポジションをとっている。たとえばバイオメカニクスに基づく「地面反力」についてのクォン教授との共著の本は、人間の身体にかかる力学モデルの抽象度が適切で、非常にわかり易いものだった。またコミック本で、レッドベターの「Aスイング」やピート・コーエンの「スパイラル・スイング」を紹介している。

今回紹介した『ゴルフ 3D スイング』が主に腕の動きを説明した本であるのに対し、『驚異の反力打法』は下半身の動きを説明した本であるのが、興味深い。

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