フランシス・クリックと共にクリストフ・コッホが取り組んできた「意識の探求」、いわゆる心脳問題(The Mind-Body Problem)の研究成果をまとめた本である。
「意識」の要素というべき「クオリア(質感)」を表象するニューロン群とその活動(NCC = Neuronal Correlates of Consciousness) があるはずであり、その発見に全力を尽くすという研究アプローチを提唱している。NCC とは「ある特定の意識知覚を生じさせるために、最小限必要でかつ十分なニューロンの活動形式とメカニズムを含んだ最小のニューロン群」である。Edelman の「ダイナミック・コア」のような holistic なニューロンではなく、局在的な NCC を見つけようとしているのが対照的である。
本では、この NCC を探す長い旅が続けられる。その旅の中でさまざまな学説を取り上げ自説と比較するので、何が問題であるか、何がわかっていないかということがわかり、視覚に関する脳科学研究を包括的に眺めることができる。
現時点では残念ながら NCC は見つかっていない。本の最後で、この辺りにあるだろうとする 10個の作業仮説と、それを統合する枠組みに触れ、今後の研究のやり方について述べている。
遠い道程である。その中にあって、自分の頭を内省するという思索的なやり方では真理に到達できない、この問題について哲学者が歴史的に解を見出したことはない(ただし哲学者はよい問いを発している)、難しいメタ意識などの問題はとりあえず棚上げにし、科学的に取り組める問題に集中しよう、もっとも研究が進んでいる視覚について NCC を見つけよう、という具合にしごく明快で実践的な戦略をとっていることに、個人的には好感を持っている。
茂木氏がダーウィンをめざしているのに対比するとしたら、コッホは脳科学における DNA の発見と解明をめざしているのだろう。
- 作者: クリストフ・コッホ,土谷尚嗣,金井良太
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/06/28
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参考文献は岩波書店の Web サイトにある。
翻訳者の一人である金井良太氏のブログはこちら。Psychophysicsのネタ本というエントリに脳科学分野で面白そうな本のリストがある。
フランシス・クリックは残念ながら亡くなってしまったが、コッホとの初期の研究成果は「DNAに魂はあるか―驚異の仮説」にある。
- 作者: フランシスクリック,Francis Crick,中原英臣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1995/12
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