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新興市場における携帯電話の驚異(2)--- 発見の瞬間

The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」まとめ

  1. "Mobile marvels"(原文)→ 「携帯電話の驚異」(日本語要約)
  2. "Eureka moments"(原文)→ 「発見の瞬間」(日本語要約)
  3. "The mother of invention"(原文)→ 「発明の母」(日本語要約)
  4. "Up, up and Huawei"(原文)→ 「上へ上へ、そして遠くへ(Huawei)」(日本語要約)
  5. "Beyond voice"(原文)→ 「声を越えて」(日本語要約)
  6. "Finishing the job"(原文)→ 「仕上げ」(日本語要約)

The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」のまとめ、第2弾である。新興国・途上国で、どうやって携帯電話が発展のツールになったのかを描く。マイクロファイナンスという仕組みを、牛ではなく携帯電話に応用することに気づいたのが、「ユーレカ!の瞬間」であったろう(以下、図をクリックすると、原文のウェブサイトに飛ぶ)。

Eureka moments 「発見(ユーレカ!)の瞬間」
どのようにして贅沢品がグローバルな発展のツールになったのか

数年前まで若いエリート層のおもちゃと考えられていた機器が、どのようにして「国の発展において、最も変化させる力のある、ただ一つのツール」("the single most transformative tool for development")になったのか?以下に挙げる複数の要素が一緒になって、携帯電話を普及させ、成長の引き金を引いた。

まず二つの主要な技術標準により、開発途上国に携帯電話は広がった。携帯電話の価格が下がることで途上国の中で、最もお金を持つ層の手に届くようになった。これにより最初の携帯ネットワークが設置されたが、まだ値段は高いままであった。

携帯電話普及への次の大きなステップは、プリペイドの料金システムの導入である。このシステムでは、利用者は通話クレジット(calling credit)分を支払い、そのクレジットがなくなるまで話すことができる。通信事業者にとっては、利用者に請求書を送ってお金を回収する手間が不要となる。プリペイドシステムは、親が通信料の上限を決められるため、1990年代後半、ヨーロッパでティーン・エージャーに携帯電話が広がるのに役立った訳だが、貧しい国では、このシステムにより劇的に携帯電話市場が拡大した。途上国では、通話料金を補充する引換券(クーポン、top-up voucher)が、$0.50 単位で街中の小さな商店や街頭で、日常的に販売されている。

From luxury to commodity

プリペイドシステムに移行した後の、次の大きな障壁は携帯電話そのものの価格であった。1997年には約 $250 だったものが今では約 $20 にまで下がっている。途上国の大きな市場に気づいた携帯電話メーカーが、低価格モデルを作るようになったのだ。この価格でも手の届かない人には、マイクロファイナンスという方法があった。

バングラデシュの Grameen 銀行で有名になったマイクロファイナンスは、田舎の貧しい人に小口の貸付を行う。女性がローンで借りたお金で牛を買い、そのミルクを売って得た儲けから返済していくのが典型的な例である。彼女は収入を得、近所の人はミルクを買うことができる。

バングラデシュから米国のバンカーになった Iqbal Quadir は、このモデルを見て閃いた。「携帯電話が牛になる」と。バングラデシュの携帯通信事業者 GrameenPhone は、"telephone lady" のアイディアを得た。田舎の町の女性たちは貸し付けられたお金で、携帯電話とアンテナ、大きな電池を買い、他の村人たちに短時間の通話を売るのである。通話料金でローンを返した後は、それで家族のヘルスケアや教育、他の商売を始められるようになる。この「村の電話」("village phone")モデルは、バングラデシュの何千もの村に急速に拡大し、携帯電話のカバー範囲を広げていった。

今では telephone lady の占める割合は GrameenPhone の850万の顧客のうち22万ほどという小さなものになっているが、それでも全通話の 1/3 は共有されている携帯電話によるものだ。Grameen 銀行の創始者である Muhammad Yunus は NPO Grameen Foundation を立ち上げ、「村の電話」モデルをカメルーンインドネシアルワンダウガンダへ広げていった。このモデルは他の地域にも広くコピーされていった。アフガニスタンでは機器を買うために平均して8ヶ月のマイクロローンを組み、月に $50-100 の収益を得ていると言われている。

値段が下がって途上国の大多数の携帯電話ユーザが、自分で機器を持つようになった。しかしそれでも共有の携帯電話の需要は失われていない。なぜなら、通話料金を補充するよりも「村の電話」からかける方が安くて済むからである。

プリペイドの通話料金、携帯電話そのものの価格。これだけでは十分ではない。これらにテレコム市場の自由化が加わることで普及に拍車がかかった。通信事業者どうしが顧客獲得競争をすることで、通話料金も下がり、携帯電話はさらに普及した(図3)。


We have lift-off

エチオピアは携帯通信事業者が政府による独占のままという数少ない国である。エチオピアでは、2008年末までで100人のうち3.5人が携帯電話を使っているのに対して、アフリカ全体では40人である。自由化が携帯電話の普及を重要な要素であることがわかる。

Calling for growth

携帯電話の普及が経済的な発展を促進しているのだろうか?最初のうちはその証拠は逸話的なものであった。たとえば:

  • 農夫や漁師が産物によい価格をつける市場を携帯電話で探すことができる。
  • 店を持つほどお金を持っていないが、携帯電話とバイクを購入、電話でアポ取りして顧客の家で散髪する商売を始める(ちょっとした起業家)。
  • 配管工がいちいち店に戻らずとも、顧客のメッセージを聞けるようになり、生産性が上がった。
  • アフガニスタンでは、通話料金の引換券を売る業務で 25,000 もの職が創出され、税収も伸びた(新しい職の創出)。

ここ数年、携帯電話の普及が経済的に与える影響が研究されて、上記の逸話を裏づけている:

  • 携帯電話の普及と共に南インドの魚の値段がどう変化したかを調査(2007年、ハーバード大学):
    • 漁師は海上にいる間に、複数の市場に電話をかけることで、魚を市場に持って帰るか捨てるかを決定する。市場効率性が働き、その沿岸での魚の値段のばらつきがなくなり、消費者向けの価格が 4% 下がると同時に、漁師の儲けは 8% 上がった。
  • ニジェール(Niger)の穀物市場における2001-2006年の価格に対する携帯電話の影響(2008年、UC バークレー):
    • 携帯電話により穀物市場間の価格の変動が 6.4%の範囲に収まるが、携帯電話でアクセスできない遠い市場はそれが大きくなる。2005年に食料価格が高騰した時も、携帯電話でカバーされている市場では、穀物は 4.5%安かった。


We have lift-off

これらのミクロ経済の研究が、携帯電話と経済成長の相関を示唆する下記のマクロ経済分析を支持している:

  • 典型的な途上国で、100人あたりに 10台携帯電話が追加されると、一人あたりの GDP が 0.6% 上がる(2005年、ロンドン・ビジネススクール):
    • この研究に対しては、携帯電話が GDP を上げているのか、GDP が上がったから携帯電話が普及したのかという批判があったが、先のハーバード大学のミクロな市場データ分析を通して、携帯電話が人々の暮らしを改善していることが示されている。
  • 120の先進国・途上国で、固定電話と携帯電話、インターネット接続(ダイアルアップ、ブロードバンド)が、一人あたりの GDP に与える効果を調査(2009年、世界銀行):
    • 携帯電話が 10% 増えると、一人あたりの GDP が 0.8% 上がる(ロンドン・ビジネススクールの結果と整合する)。
    • 携帯電話は固定電話より成長を促進するが、インターネットよりは効果が少ない(図4)。

Wireless freedom

携帯電話がもたらす利益は経済的なものにとどまらない。政治的にも社会的にも便益をもたらしている。

たとえば携帯電話のテキスト・メッセージのやりとりで、人権侵害の報告があったり、支援を調整したり、選挙のモニタリングに使われたり、抗議活動の調整が行われたりしている。これらもまた逸話であるが、携帯電話によって人々の生活が改善された、無数にある中の一部の例である。

今後、農業のアドバイスを受けたり、価格情報を交換したり、モバイル・マネーをやりとりしたりするような新しいサービスが、さらに便益をもたらす可能性がある。この第2の波は、携帯電話がさらに普及した時に大きな影響力を持つ。そのためには携帯電話の価格がもっと下がる必要がある。


Eureka moments

The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」まとめ

  1. "Mobile marvels"(原文)→ 「携帯電話の驚異」(日本語要約)
  2. "Eureka moments"(原文)→ 「発見の瞬間」(日本語要約)
  3. "The mother of invention"(原文)→ 「発明の母」(日本語要約)
  4. "Up, up and Huawei"(原文)→ 「上へ上へ、そして遠くへ(Huawei)」(日本語要約)
  5. "Beyond voice"(原文)→ 「声を越えて」(日本語要約)
  6. "Finishing the job"(原文)→ 「仕上げ」(日本語要約)