ソニーで VAIO パソコン、ビデオレコーダー(コクーン、スゴ録)などのヒット製品を出した後、グーグルに転職。日本法人社長を3年間勤めた辻野晃一郎(@ktsujino)さん渾身の半生記が、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』である。
- 作者: 辻野晃一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/11/22
- メディア: 単行本
- 購入: 9人 クリック: 339回
- この商品を含むブログ (73件) を見る
VAIO 事業の建て直し。ネットと機器の結合により新しい価値提供をめざしたコクーン。スゴ録の成功。逆境に置かれても、熱くチャレンジするその戦いぶりには頭が下がる。
しかし時代は大きく変化し、ウォークマンはアップルの iPod に敗北する。コンテンツやサービスも含めた生態系(エコシステム)全体で攻めてくるアップルに対して、伝統的なウォークマン部隊は音質や耐久性といったハードそのものでの価値提案しかできない。辻野さんはその中にあっても戦いを挑み、最後は政争に敗れるような形でソニーを去ることになる。愛してやまない育ての親のソニーを、不本意な形で辞めることになったその心中はひとかたならぬものであったろう。
そして今度はネット時代の申し子のような会社グーグルで、日本企業では考えられなかったような価値観と組織体制、スピーディなマネジメントを経験される。残念ながら秘密保持契約の関係もあるのだろう、グーグルでの激務について具体的には書かれていない。しかしソニー時代にはまったく理解されなかったインターネットが、グーグルではごく普通の日常のものとして扱われ、当然のように自分たちがその先端を走って、変化を作り出していく。
ハードからソフトへ。オフラインからオンラインへ。パーソナル・コンピューティングからクラウド・コンピューティングへ。ソニーとグーグルという両者を代表する対照的な企業で、大きなビジネスの変化を経験した辻野さんは、最後にこう述べている。
「変化の時代に変化に抗しても、結局は自分が淘汰されて行くだけだ。それは個人でも、企業でも、国でも、同じことだと思う。自ら変化を起こす側に回るか、変化に身を投じる以外の選択肢はない、というのが私自身の結論である。」
そう断じて、ソニーとグーグル、両方のいいところを併せ持った、日本発のグローバルな会社を作るという新たな夢にまたチャレンジする著者の姿がまぶしい。
この本の中に出てくる話は、電機メーカーの中でネットサービスをやっている僕には、痛いほどよくわかる。ともすれば、気持ちが萎えそうになる時もあるが、辻野さんは決してあきらめなかった。その体を張った熱い戦いぶりに、叱咤激励される思いである。今日の午後、Amazon から届いて数時間、一気に読み終えた。