YouTube の動画を見て、堀尾研仁プロの GEARS を使ったスイング分析に興味を持った。自分のスイング像が客観的なデータとして明らかになる GEARS レッスンを一度受けてみたいと思っている。
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そんな中、2021年末に堀尾プロによる GEARS データに基づくスイング解説本、『ゴルフ 脱・感覚!! スイングの真実』が出版されたので、早速、読んでメモを作ってみた。
GEARS から提供されている PGA ツアー選手20人の平均データが、スイングづくりの「基準」になる。その「スイングの基準」(正解)とのズレが、GEARS によって明らかになり、事実に基づくレッスンが可能となった。
本書は、その基準となるスイングがどういうものかを
- 手・腕の動き
- 体の動き
- 手・腕と体の調和
の3つの観点から明らかにすると同時に、それを身につけるための練習を動画で紹介する。動画は QR コードからアクセスできる(このブログの最後に動画へのリンク集をまとめた)。
ツアーアベレージのスイングが「正解」なのか?そもそもツアープロのスイングをアマチュアが身につけることができるのか?素朴な疑問も感じる。だがプロのスイングは最も効率的なスイングであり、それを「スイングの基準」として、そことの差異が少しづつでも小さくなるよう練習することは、安定したスイングを身につけていくことにつながると思う。
本書は専門的な GEARS のデータを、アベレージゴルファーにもわかる日本語に「翻訳」してくれた本だと思う。実を言うと個人的には、GEARS データのもっと詳しい解説を期待していたのだが、それはマニアック過ぎて、きっと本としては売れないのだろう。この本を読んで、ますます GEARS を使ったレッスンを受けてみたいという思いが強くなった。「スイングの基準」の解説だけでなく、それをマスターするためのドリルが動画で 25本も紹介されており、コストパフォーマンスもよい本だと感じる。
この本の GEARS データの解説を通じて、堀尾プロが言いたかったことを、ざっくりまとめると、次のようになるだろうか:
- 多くのアマチュアは手・腕が正しく使えていない。
- 上級者は「手を使わない」と言っているが、GEARS のデータをみれば PGA ツアー選手が手・腕を使っているのは明らか。
- まず手と腕の動きを覚えましょう。
- それから体の動き・回転を覚えましょう。
- そして手・腕と体の動きの調和を覚えましょう。
- ハーフウェイダウンで正しい位置・向きにクラブがくれば、あとは体の回転で自動的にスクエアなインパクトになる。
- そのためのトップと切り返し、そこに持っていくためのバックスイングを学びましょう。
正しいインパクトを迎えるには、ダウンスイングが鍵。しかもダウンスイングの前半がうまく行けば、後半は体を回すだけでスクエア・インパクトになり、余計な修正・調整する必要がない。これが上級者が言う「手を使わない」ということで、物理的には使っているがその実感がないのである。
この本では GEARS データに基づき、次の4つのエリアに分けて、スイングを解説していく:
- エリア1:アドレスからテークバック。バックスイングの始動。腕と手が位置移動するエリア
- エリア2:バックスイングからトップまで。腕を捻ってパワーを溜めるエリア。バックスイングの後半でしっかり胸を捻るエリア
- エリア3:切り返しからダウンスイングの前半。両手が腰の高さに戻るまでのエリア。体の捻れをタメて(保って)くる
- エリア4:体の捻れを解放してパワーを出力するエリア
以下に本書の解説の要点を記していく。またそれを補足する YouTube 映像も随所に挿し込んでいく。
まず GEARS のインパクトのデータの基本的な見方と、インパクトに向けてエルボープレーンより内側からクラブが入ってくることの重要性を知っておく必要がある。
正しいクラブの動き
- エリア1:
- 胸が右を向く動きにより、手・腕・クラブが右に移動する
- エリア2:
- バックスイングで体をうまく捻れると、右肘のエルボープレーン上にクラブが上がり、肩の後ろあたりでトップが決まる
- エリア3:
- トップから体の捻れを維持したまま、腰の回転でダウンスイングをスタート。胸と腕でクラブを引っ張ると、クラブはエルボープレーンとシャフトプレーンの2本の間に入ってくる
- エリア4:
- クラブが地面と平行になる地点では、両手とクラブヘッドが重なり、フェースは平行からやや下向きになる。その後、フェースは徐々にボールの方向を向き、閉じるように動きながらインパクトに向かう
- バックスイングで腕と体を捻り、切り返しまでは捻れを保つ
- クラブを引っ張り戻す力を使いながら、ダウンスイングの前半に入る
- 大事なのは捻りのコントロール。インパクトに向けて捻り戻すこと
- これができるようになると、しっかり叩いて真っ直ぐ飛ぶので、飛距離とコントロールが両立する
- 正しい手の使い方がわかると、クラブの位置やフェースの向きが感じとれるようになる
- ポイントはハーフウェイダウン。腰の位置まで手が下りてきた時に、クラブヘッドと手が重なると、クラブの状態がわかり、オートマチックにインパクトに向かう
- ヘッドが腰のタイミングで、フェースが 0度(正面)か下向き 10度が適正
腕と手の動き
- エリア1:腕も手も大きく変化せず、アドレスから右に位置移動するだけ
- 体のリードでスイング始動。腕の動きを抑えることで、必然的に胸が右に回り、体の捻れを作るきっかけになる
- エリア2:ヘッドの運動量を増やし、いいトップに導く
- 両前腕を内側に絞って(回内)、右手首を甲側に折る(背屈)= コッキング。これによりヘッドの運動量を増やす
- 右肘を緩やかに曲げて、下に向ける
- 右上腕部が外旋(右回転)、それ以上外旋できない位置がよいトップの位置
- 右前腕部は内側に捻れる
- 前腕の回内につられて上腕も内旋するとシャフトクロスになる
- エリア3:両腕を内側に絞るように捻り、腕の捻れを維持してクラブをしっかり引っ張る
- 重要なのは、両腕の捻れのバランスを保つこと
- 左前腕の回内が弱い、回外が起こる、右前腕の回内が過度 → クラブが高い位置から立った状態で振り下ろされる → アウトサイド・イン軌道
- 左前腕の回内が強い、右前腕が回外 → クラブが低い位置から寝た状態で振り下ろされる → フェースが開いてシャンク、過度なシャローイング(インサイド)
- 重要なのは、両腕の捻れのバランスを保つこと
- エリア4:捻れを一気に解放して、ヘッドスピードを最大にする
- 左右の前腕を左方向に捻り戻す
- 右前腕は引き続き回内する
- 左前腕は回外する
- 左手と左腕だけだとフェースはまだ開いている:左前腕はアドレス時に対してまだ回内した状態で、左手首の角度もそれに準じる
- 右手と右前腕は閉じている:エリア2のコッキングと同じ動き = 右前腕の回内と右手背屈がセットになっている
- 左右の前腕を左方向に捻り戻す
この腕と手の動きのイメージは以下の通り:
- 剣道の「メーン!」のイメージで、手首をほどきながら両腕を内側に絞って、タテに振る
- これにヨコの動きが入ることで、斜めのスイング面ができる
- ヨコの動き = 体の回転と右肘が下を向く動き(右上腕の外旋)
- リードアームは右手、利き手で打つイメージ
- バックスイングでは、右前腕は内旋、右上腕は外旋。肘を境に逆方向に捻る
- これによりレイドオフのトップになる
- トップの位置がよくなれば、自然とインサイドから振り下ろせる
- エルボープレーン上にクラブが上がれば、クラブが肩より低い位置にあれば、クラブを立てる意識で振ってもオンプレーンになる
- トップを上から見ると、プロは肩のラインに対してシャフトのアングルが 75度以下で、肩より低い位置からクラブが下りる
- アマは 90度以上の人が多い。85度以上になると肩よりも高い位置から下りて、アウトサイド・イン軌道になる
- 柔道の「一本背負い」のイメージでダウンスイングする
- トップから腰を開いて、胸を下げ、肘を伸ばしながら右掌を地面に向けるように、クラブを振り下ろす
- アウトサイド・インでスイングする感覚。ただしトップの位置が正しいことが条件
- 「手を使わなくていい」という上級者のイメージの真実:
- ハーフウェイダウンでフェースが正面ないし下向き 10度となった状態がスクエア
- ここで後方から見た時に手とヘッドが重なると、体の回転主導、腕が受動的に動かされて、スクエア・インパクトを迎える
体の動き
体の動きの役割は二つ:
- 軸ができることで回転が安定すること
- 体の捻れがスイングスピードのアップ=パワーアップにつながること
体重移動は、あくまで結果的に行われる。
スイングにおける中心は、みぞおち(腰と胸の中央)。みぞおちが中心となって遠心力を作る。
- エリア1:バックスイングの始動
- 腰も胸も右足方向へわずかにヨコ移動する。腰と胸が同じ量移動するので、スイング軸の傾きはアドレスと変わらない
- 後方から見ると、腰と胸はアドレス時の前傾角度を保って回転、スイング軸の角度も維持
- 体の捻れは、腰の回転量に対して胸が約2倍の回転量になる
- エリア2:バックスイングの後半でしっかり胸を捻る
- 腰も胸も右足方向へヨコ移動する。腰と胸が同じ量移動するので、スイング軸の傾きはアドレスと変わらない
- 腰はアドレス時の前傾角度を保って回転
- 胸は背屈(胸を反る)しながら回転するので前傾がわずかに浅くなる
- トップの直前からは、腰と胸が目標方向に動き、切り返しの予備動作が始まる
- 腰の回転量に対して、胸は約2倍のまま
- エリア3:体の捻れを保つエリア
- このエリアの前半(トップの直後)で腰のスピードと体の捻れ(Xファクター)が最大になり、腰と胸はスタンスのセンターに戻る
- 腰は目標方向、やや後傾して回転を始める
- 胸は前屈 → これができるとクラブを低い位置から下ろせて、オンプレーンスイングが可能になる
- 腰、胸ともにわずかに地面方向に沈み込む
- エリア4:体の捻れをリリースするエリア
- 正面から見て、スイング軸はやや右に傾く。左腰が高く、右腰が低くなる
- 腰は目標方向に動き、胸はスタンスセンターに留まる
- インパクトでは、腰は40度、胸は20度オープン、肩のラインはほぼスクエア
遠心力を作るためには「みぞおち」(腰と胸の中央)が、真上から見るとループを描く。
- みぞおちは、常にクラブと反対方向に動いて、クラブと身体が引っ張り合うことで、遠心力を生む
このみぞおちのループする動きを作るために、腰と胸は、別々のパートとして考える。
- 腰の動き
- バックスイング:前傾を保って回転し、右腰を高い位置、左腰を低い位置に
- ダウンスイング前半:右腰を高い位置、左腰を低い位置に保って、腰を沈めるように回転する(螺旋階段のイメージ)
- ダウンスイング後半:左腰は高く、右腰は低くなる
- 胸の動き
- バックスイング:前半で胸は腰の2倍程度回転し、後半でもそれを保ちつつ、上体がわずかに反る
- ダウンスイング前半:胸は前屈し、腰はボール方向、胸の中央は右つま先方向を向く
- 最も重要なのは胸の前屈
- これができるとクラブを低い位置から下ろせて、オンプレーンスイングが可能になる
- ダウンスイング後半:腰と肩に作られた捻れを一気に解放する
- スイング軸は2つ:腰と胸は2つのコマ
- ダウンスイング前半:腰は目標側・後傾、胸は目標と反対側・前傾
- ダウンスイング序盤で、腰と胸の捻れ差が最大になる
- 腰と胸は回転しながらヨコ移動する
- バックスイング:トップまでに腰も胸も 5cm 右に移動
- ダウンスイング序盤:腰も胸もスタート位置あたりに戻る
- ダウンスイング後半:腰は目標方向に移動、胸はスタンスのセンターあたりに留まる
地面反力は、胸の上下動から生まれる。PGA ツアーのデータでは:
- バックスイングで緩やかに沈み、トップでは 3cm 沈む
- 切り返し以降も沈み続け、最大に沈むのは切り返し直後で 4.7cm
- その後は目標方向に動きながら伸び上がり、インパクトで、アドレスと同じ高さに復帰する
腕と体の動きの調和
ハンドファーストは、体がリードして、腕、クラブの順番に引っ張った結果できる形。
GEARS の「リードショルダーアクションアングル」というデータで、「腕と体の調和」が示せるようになった。スイング中の肩のラインと左腕の角度の変化である。
- アドレス:77度
- バックスイング(手が右太ももに来たあたり):85度
- トップ:61度
- 少し腕を上げるので狭まる
- ダウンスイング(グリップエンドが腰のあたり):77度(元に回復)
- この時にアドレス時の値に回復していないのは、振り遅れ
- インパクト:85度
- 腕を振り、肩と腕の角度が広がって、ハンドファーストになる
- 腕を振らなければいけない。角度が広がって手が先行することで、手首の角度がキープされる
アマチュアのほとんどは、ダウンスイングで手が腰の高さに来たあたりで角度が回復せず、手首の角度が解放されるアーリーリリースになっている。柔道の一本背負いのように、腰を開き、胸を下げた後に、右ひじを伸ばしながら内側に絞ってくる(右掌を下に向ける)動きができると、角度が回復する。
体と腕とクラブの調和は「キネマティックシークエンス」という概念で理解される。
- 腰がリードし続けるわけではない
- 腰は最初のうちは速く動くが、そのあとは減速する
- 以前は中心部から外に向かって加速度が変化すると言われていたが、GEARSデータは違う
- 最近のプレーヤーほど「腰→腕→胸→クラブ」の順で動き、クラブをリリースする
- トップから目標方向へ踏み込む:腰が最高速度
- 手が腰の高さに来たあたり:腕が最高速度
- ダウンスイングの後半:胸が最高速度
- インパクト前後:クラブが最高速度
- 腰と腕が加速した後、最後に胸が遠心力をかけるように後ろに動きながら、クラブをリリースする
調和のとれたスイングを作る最終要因は、リズムとテンポ。これらが安定することでスイングは安定する。リズムで言うと「1,2,3!」の3拍子の「3」で打つと表現されることが多い。ただしこれは人によって違う。切り返しからいいテンポで踏み込めるか。それさえできれば、バックスイングのカウントはいくつでもよく、テンポもそれぞれで構わない。
最後に「スイングの基準」を身につけるための、いや、そこに近づけるための練習方法・ドリルへの動画リンクをまとめておく。正面と後方からの2画面から構成されている、わかり易い動画である。