Muranaga's Golf

46歳でゴルフを始めて10数年。シニアゴルファーが上達をめざして苦労する日々をつづります

ゴルフに対する科学的なアプローチ

ゴルフのスイングのメカニクスについては、科学として理論的・実験的な研究対象になるし、GEARS などの計測機器の発達により、かつて提唱された理論やモデルが、データに基づいて解明・証明されてきている。

一方、スイングという行為については、その内的な感覚や意識の客観的な記述は難しく、それを伝えるには、イメージ表現にならざるを得ない。当然、上達のメソッド(方法論)の説明もそうなることは頭ではわかっている。しかしできることなら、科学的根拠のあるメソッドを学びたい。「科学」とか「科学的」といったタイトルがつけられたメソッド本を、つい手に取ってしまい、時にその科学的ではない説明にがっかりさせられることもある。

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そういった中、ゴルフに対してきちんと科学的なアプローチをしていることがわかる本は、海外のものが多い。

たとえばタイトルがそのものずばりの「ゴルフの科学」、『Golf Science: Optimum performance from tee to green』という本がある。この本は、欧米における物理学・バイオメカニクスなどの科学的研究のエッセンスを一般向けにまとめたものである。参考文献も豊富で、欧米の活発なスポーツ科学の様子が見てとれる。

ゴルフのスイング・道具・身体・心・周囲の環境・練習法・コーチングなど、広範囲・包括的に扱っており、それぞれのテーマについて、見開き2ページのわかりやすいイラスト入りの解説が示されている。たとえば…

  • Xファクターとは何か?大きなボディターンは飛距離を生むのか?
  • どうやったら最大飛距離を出せるのか?
  • シャフトのしなりはショットにどう影響するのか?
  • 風や水分・温度が飛距離に与える影響は?
  • ラウンドするだけでうまくなるのか?もっと練習すべきか?
  • 練習器具は役に立つのか?
  • スマホ・アプリやメトロノームは上達に貢献するのか?

こういった興味深いテーマを選んで、好きなところから読んでいくことができる。イラストを見ていくだけでも楽しい。

「荷重(体重)移動はどのくらいすべきなのか?」というテーマでは、スイング中の荷重移動には、単に「右 → 左」というだけではなく「右 → 左 → 右 → 左」と動くスタイルもあり、比較をしている。この二つの典型的な荷重移動以外に、stack & tilt(左一軸)というスタイルが一部の選手・コーチの間で(裏付けが乏しいものの、anecdotally)人気があると説明されている。

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科学的というからには、実験データに基づく仮説検証というプロセスを経るというのが前提になる。そういう科学的なアプローチでパッティングに取り組んだのが、ペルツの『パッティングの科学』であろう。

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NASA のエンジニアだったペルツはパッティングやショートゲームについて、『Dave Pelz's Putting Bible』『Dave Pelz's Short Game Bible』など、大部となる本を何冊か書いてあるが、その中で翻訳されているのが『パッティングの科学』であり、この本で明らかにされた「カップを 43cm オーバーするように打つ」というのは今ではよく知られている。自作の機械でさまざまな実験データを取り、検証を行っている。

そのパッティングの科学をパターに応用したのが、3-Ball パターである。Odyssey がその技術を買って 2-Ball パターを商品化した。僕のエースパターも 2-Ball である。またペルツ博士による練習道具、Putting Tutor も試してみた。

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スイング理論の古典と言えば、Homer Kelly の『The Golfing Machine』 (Webサイト)であろう。Stack & tilt(左一軸)というメソッド(学習システム)のベースとなっている理論であり、デシャンボーが触発されてシングル・レングス・アイアンにしたと言われる理論でもある。TGM(= The Golfing Machine)は、米国 PGA 資格維持の単位にも認定されているとのこと。

1969年の出版当時、新しい概念・アイディアを造語で記述したこともあり、また個々の概念の説明も十分とは言い難く、とにかく難解だという評判である。TGMを教える公式団体があり、木場本知明プロが日本初の公認インストラクターである。

木場本プロによれば、TGM は上級者向け、習う側よりむしろ教える側のための本とのことで、TGM 公認の翻訳および解説書を出している。解説書を入手して目を通してみたが、確かに用語が特殊でとっつきにくい。ただ最下点より前にボールコンタクトする(「ローポイント」)とか、左手を背屈させずに(「フラット・レフト・リスト)右手背屈を維持する(「フライング・ウェッジ」)など、今では常識となっている概念が提唱されていたことがわかる。また「2レバー」「フレイル」という言葉で、原始的な「二重振り子モデル」も登場している。

TGM のローポイントについては、木場本プロの次の映像がわかりやすい:


www.youtube.com

『The Golfing Machine』と同時期に、David Williams『The Science of the Golf Swing』、Alastair Cochran『Search for the Perfect Swing』といった本も書かれている。

大庭可南太さんが Webサイト上で『The Golfing Machine』『Search for the Perfect Swing』の日本語訳を公開しており、『The Golfing Machine』については自費出版(オンデマンド印刷の紙版)も行っている。

上手くなりたい一心で TGM を参考にしたアマチュアゴルファーだったが、TGM に対する情熱が凄くみんなのゴルフダイジェスト」上で連載しているばかりでなく、とうとうインストラクターにまでなってしまった方である。

www.golfmechanism.com www.golfdigest-minna.jp

Linkslover さんのブログで、『Search for the Perfect Swing』の要点を読むことができる。TGM 同様、ゴルファーの「二重振り子モデル」は、この本で提唱・確立された。

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「Dプレーン」(Descriptive Plane)は、ゴルフィング・マシーン(TGM)の理論をベースに、Jorgensen『The Physics of Golf』という本で、1990年代に提唱された。そして計測機器が進化した最近になってその正しさが証明された。今まではスイング軌道がボールの打ち出し方向に影響を与えると言われていたが、実はフェースの方向がボールの方向を決めることがわかった。

宮崎太輝『ローポイント・コントロール』、奥嶋誠昭『ザ・リアル・スイング』、井上透『ゴルフを科学する』、石井忍『ゴルフは科学でうまくなる』などは、「Dプレーン」による飛球法則を説明し、それに基づく上達メソッドを紹介する。

欧米の理論・メソッドについて書かれた洋書は高価だし、英語で読むハードルも高いので、日本語で紹介してくれる本はありがたい。欧米でのプロのインストラクターたちの間で形成されている、学会のようなコミュニティーでの研究成果の一端を知ることができる。

宮崎太輝プロの『ローポイント・コントロール』は、スイング・アークに対してフェースをできるだけスクエアに保つことと、最下点(ローポイント)の管理を掘り下げた本である。ローポイントより手前にボールを置くことで、直接ヘッドがボールにコンタクトして、ダウンブローに打つことができる。

そのローポイントをできるだけ安定して、左肩の下に持ってくる打ち方として、宮崎プロはスタック&ティルト(stack & tilt)、いわゆる「左一軸」を推奨している。

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GEARS で提供される米国 PGA 選手平均の参照モデル(reference model)のスイング像を解説したのが、堀尾研仁『ゴルフ 脱・感覚!! スイングの真実』である。その内容の濃さに感動して、思わず堀尾プロの GEARS レッスンを受講してしまい、その結果、シャフトクロスを直す決心をしたのは、いい思い出である。

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堀尾プロと同様、GEARS データをもとに、スイングにおける体の動きを、包括的に図を使って解説している本に、奥嶋誠昭プロの『ゴルフ 当たる! 飛ばせる! スイング解剖図鑑』がある。

GEARS のデータから、ゴルファーがグリップに与える力を 3次元で可視化したのが、Jacobs 3D である。Michael Jacobs 自身による著書『Elements of the Golf Swing』『Science of the Golf Swing』がある。この二つの本のエッセンスをまとめてくれた Linkslover さんのブログ(『Eelemtns...』『Science...』)は、とても参考になる。

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Jacobs 3D は、グリップに与える力と動きを可視化した「ハブ・パス」でスイングを分析する。ハブパスの半径・曲率の変化にスイングの特徴が表れ、これを最適化することが上達することにつながる。「二重振り子モデル」をより緻密に記述するフレームワークが、GEARS と計算機を使った解析で可能になったと言える。

YouTube Task Golf で知られるタスク(TASK)さんこと、松本協『ゴルフの力学』は、Jacobs 3D の日本語解説である。TASK さんは元金融マン。Jacobs のもとに単身乗り込んで、その努力と熱意が認められ、Jacobs 3D の日本のアンバサダーになり、ティーチング資格も取得している。

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ゴルフ・スイングが科学的に解明されて、物理モデル・理論が確立してきたとは言え、理想的なスイングを身につけるメソッド・方法論については、いくつも流儀がある。

数年前、TASK さんと三觜喜一プロはタッグを組んで、Jacobs 3D と「うねりスイング」を PR していた。三觜プロが従来から教えてきた「うねりスイング」というメソッドは、Jacobs 3D の理論に適合していたという位置づけであった。

golfsapuri.com muranaga-golf.hatenablog.com muranaga-golf.hatenablog.com muranaga-golf.hatenablog.com

Stack & Tilt の宮崎コーチと、Jacobs 3D の TASK さんが対談する動画は、米国でのインストラクターたちのコミュニティの様子や、そこで二人が徹底的にしごかれた経験を知ることができて面白かった。


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フェース・コントロール、ローポイント・コントロールを重視する宮崎コーチが、クラブの重心管理ができるようにする TASK さん考案の練習器具、3D Swing Mentor を絶賛している。メソッドは違えど、最終的にめざすべきスイングは、クラブの特性に合わせて、そこに余計な力を加えないものであるということがわかる。そのための練習器具として、3D Swing Mentor は汎用性の高いものなのだろう。

taskgolf.com


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Jacobs 3D と同じように、ゴルフのクラブにどのように力(フォース、トルク)が働くか、サショ・マッケンジー博士の「フォワードダイナミクス」の基礎を紹介するのが、吉田洋一郎『生体力学×動力学でクラブの科学を理解する ゴルフ3Dスイング』である。マッケンジー博士は、パッシブトルクの働きを解明した。クリス・コモなどのコーチが影響を受けている。

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クラブの動き、それを操作する手の働きを解明する物理学の世界がある一方、生体力学(バイオメカニクス)で体の動きを研究するアプローチもある。特に下半身の動き、いわゆる地面反力・床反力に関するヤン・フー・クォン博士の理論を解説した本が、クォン・吉田洋一郎共著の『驚異の反力打法』である。

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驚異の反力打法

驚異の反力打法

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ゴルフというゲームに対する科学的アプローチということでは、動的計画法に基づく統計分析で Stroke Gained の概念を提唱したブローディ『ゴルフデータ革命』が must read であろう。非常に示唆に富む内容である。

このようにゴルフ・スイングの科学的な解明は進んでいる。先人たちが作ってきたスイングの物理モデルのあとを辿るのは、科学史探訪みたいで面白い。ゴルフの科学の最新成果については、最初に紹介した『Golf Science: Optimum performance from tee to green』が包括的で must read と言ってもいいと思う。

一方、上達することと、理論を学ぶこととはまったくの別問題である。スイング習得において、理論的な知識はあまり直接の役には立たない。

理想のスイングはゴルファーの数だけ存在し、そのスイング習得のためのメソッドや練習法は、インストラクターの数だけ存在する。

結局、自分の身体にあったスイングは、自分で見つけていくしかない。数あるメソッドやドリルの中から、その時点で自分に合うものを選び、反復練習をしていくことになる。

僕の場合、ゴルフスクールのコーチのアドバイスがまずベースにある。その教えは、三觜喜一プロの「うねりスイング」共通するところも多い。その三觜プロの言葉の端々にも、TGM で提示された概念が出てくる。「うねりスイング」が科学的な研究成果を参考にしており、たとえば Jacobs 3D の教えと矛盾していないというのは、個人的には嬉しい話である。上達のメソッドや練習器具を選ぶにあたって、ついそこに科学的な根拠を求めてしまうのは、(元)理系ゴルファーの性なのであろう。

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